公益社団法人地域医療振興協会 台東区立台東病院
(東京都 台東区)
杉田 義博 病院長
最終更新日:2020/11/25
地域の高齢者を多方面から支える存在
2009年設立の「台東区立台東病院」はケアミックス型の医療資源を活用して台東区の地域包括ケアシステムの中で大きな役割を果たしている。在宅医療を支える開業医と医療・介護スタッフ、自宅で在宅介護をする家族、併設の介護老人保健施設をはじめとする地域の介護施設、などをしっかりした体制で支えている病院だ。また離島などの僻地医療の支援・医師育成にも取り組んでいる。同病院はその設立時から、高齢者が住み慣れた地域で継続した医療・介護ケアを受けられるよう意識した取り組みを続けており、周辺の急性期病院や開業医、医療施設、行政などと連携をとりながら、常に進化し続けている。その先進的な取り組みは日本国内はもとより、高齢化が深刻な問題となっている諸外国からも注目され、国内外から視察団が訪れるという。今後もたゆまぬ歩みを続け、地域で高齢者が暮らし続けるための効果的な医療を考え、また医師やスタッフの育成にもまい進していく同病院。長年総合診療科の医師として活躍し、老人保健施設の施設長の経験もある杉田義博院長に話を聞いた。(取材日2017年3月28日)
病院の概要について教えてください。
当院がある台東区は、今も下町風情が色濃く残り人情味あふれるコミュニティの力が強いところです。家族の絆が強く、高齢で介護が必要になっても自宅で生活したい、という意識が強いのが特徴です。半面、医療環境としては都心部ですので大学病院など高度医療・急性期医療は充実していますが、回復期、慢性期の医療や、自宅に帰るためのリハビリテーション機能は不足しています。これに対応するため台東区によって都立台東病院の跡地に「高齢者の在宅療養を支える医療と介護の一体提供」というコンセプトのもと2009年に開設されたのが当院です。病院は急性期医療を担う一般病棟40床、急性期治療後のリハビリテーションを担う回復期リハビリテーション病棟40床、長期療養患者のための慢性期病棟40床を持ち、老健は一般棟100床に加えて認知専門棟50床の入所施設と、在宅療養を支えるショートステイと通所リハビリテーションの機能を持っています。
一番の特色は何でしょうか?
先ほどお話ししたとおり、病院は急性期一般病棟、回復期リハビリテーション病棟、療養病棟を持つケアミックス型の施設です。併せてこの地域では最も大規模な150床入所ベッドと在宅支援機能を持つ老健が同じ建物にあることにより、医療と介護を一体提供できることです。例えば在宅診療を担う開業医の先生の判断で緊急に入院が必要な時は一般病棟での診断・治療後に、病気の種類にもよりますが自宅に帰るためのリハビリテーションを回復期リハ病棟で提供できます。胃ろうや気管切開、中心静脈点滴などが必要になり自宅に帰るのが難しい患者さんや、いわゆる老々介護や一人暮らしの方など、社会的に自宅退院できない患者さんもいらっしゃいますので、その場合は療養病棟で長期に入院治療とリハビリを行うこともできます。このような流れで医療の切れ目を作ることなく、在宅医が安心して在宅医療を、家族が在宅介護に取り組める体制を整えていると考えています。
広いリハビリテーション施設がありますね。
地域包括ケアにおいてはリハビリテーションが重要となってきます。当院にはリハビリテーション科の専門医師と多くのリハビリスタッフがおり、都内でも特に広いリハビリテーション室を回復リハ病棟だけでなく、一般・療養病棟の方や通所リハの方にもご利用いただいています。力を入れているのが嚥下リハビリです。さまざまな疾患で口から食べることができなくなり、胃ろうや経鼻栄養になった方でも、適切なリハビリを行うことでまたご自分で食べられるようになるケースがかなりあります。当院では嚥下内視鏡に加えて嚥下造影という精密検査を行えます。嚥下を含めたリハビリには時間と根気も必要なため、リハビリスタッフだけでなく看護師を含めたスタッフ全員がリハビリマインドを持ち、病棟ではお花見などの季節イベント、音楽クラブの演奏会、屋上庭園での園芸など、生活すべてがリハビリテーションである、と考えてさまざまなことに取り組んでいます。
地域連携の取り組みについてもう少し教えてください。
医療と介護のネットワークづくりは最も重要なテーマです。病院と老人保健施設が併設されているメリットを生かし、開業医の先生、急性期・慢性期病院、介護施設、訪問看護ステーション、ケアマネ ジャー、地域包括支援センターといった地域の医療・介護の仲間とさまざまなケースを通して関わっています。そのために当院では病院のいわゆる地域連携室と老健の入所相談窓口を一体化し、地域連携相談室として医療と介護のワンストップ窓口としています。地域の方がどこに相談すればいいのか悩むことなく、気軽に訪れる場所が理想だと思っています。最近は退院支援専任看護師を置き、病棟ごとのソーシャルワーカーとともに入院時から情報共有をして退院そして在宅療養への流れを作り、退院支援加算の算定も始めました。近隣の在宅医療に熱心な開業医の先生と定期的なカンファレンスを行い、自宅でのお看取りも支援しています。
今後の展望をお聞かせください。
まずは今年度中に訪問看護ステーションを立ち上げ、すでに行っている訪問リハビリテーションとともに、退院しても患者さんを支えていける体制を作っていきたいと考えています。地域の開業医の先生との病診連携には力を入れていますが、これに加え、ケアミックス病院の特徴を生かして近隣の急性期~慢性期病院の病病連携を進めたいと思っています。教育という面では、現在病院と老人保健施設でたくさんの研修医・医学生・看護学生等の医療・介護関係者を受け入れていますので、さらに多くの方に大学等では学ぶことのできない地域の現場を学んでもらう機会を増やしたいと考えています。これからは前例のない超高齢化社会となります。当院が行っている、地域包括ケアシステムの中で医療と介護を一体提供するモデルは、全国、いや世界の先駆けとなると確信しています。これからもこの地域に根付いた活動を行いながら、発信を続けていきたいと考えています。
杉田 義博 病院長
自治医科大学卒業。熊本にてへき地医療に携わった後、総合病院での総合診療科の立ち上げなどに参加。2009年の台東区立台東病院開設時に同病院副管理者に就任。老人保健施設「千束」の施設長も歴任。2013年より病院長。介護保険と医療保険の両方に精通し、高齢者がより幸せな生活と終末期を送れるよう日々心を砕き、同病院を地域包括ケアのパイオニアとしてさらに成長させていくことをめざす。