慈愛病院
(東京都 文京区)
吉田 勝俊 院長
最終更新日:2021/05/13
高齢者と家族を支える地域のよりどころへ
周辺に大学病院がひしめく文京区本郷で、高齢者を支える医療と介護に特化して地域に貢献する「慈愛病院」。高齢者人口急増による医療・介護の受け皿不足が懸念されている東京都内にあって、その役割を担っている。患者やスタッフに「ありがとうござます」、「大丈夫ですか」と優しく話しかける吉田勝俊先生は、病院の院長という肩書からは想像できないほど物腰がやわらかく、温かい人柄だ。「病院管理者として苦労が絶えない」という一方で、臨床の現場で、さまざまな病気や障害がある高齢者の人生を見つめ、支えることができて、「毎日がドラマチックで、医師としてやりがいがある」と力強く話す。病院のコンセプトや特徴を存分に語ってもらった。(取材日2015年6月5日/情報更新日2021年5月12日)
病院の成り立ちと歴史についてお話しください。
慈愛会保育園の付属診療所として1952年に設立され、翌年41床の病床を持つ病院となりました。今も病院の2階には保育園を併設しています。その後、建物の新築や診療科の充実が図られ、昭和40年代の終わりには、小さいながら総合病院として形が整いました。2000年からは介護保険が適用される介護療養病床となり、主に高齢者を対象に慢性期医療を提供する病院へ。その後、要介護度の高い高齢の患者さんや、神経難病や意識障害が高度の患者さんに対応する47床の慢性期医療病院となりました。東京都は今後、急激に高齢化が進んでいきます。大きな病院で手術を受けても、すぐに家に戻れない患者さんも増えるでしょう。また、家庭の事情などで在宅療養に移れない患者さんや、在宅療養中に状態が悪化して再入院が必要となる患者さんも多いので、要介護度や医療必要度の高い高齢者をお預かりできる当院は、都内の中でも重要な役割を担っていると考えます。
救急医療から高齢者医療に診療体制を転換されていますね。
病院は地域のニーズに合った医療を提供しなければなりません。今の時代、患者さんは重い急性期疾患にかかれば高度医療を受けられる病院に行きますよね。ですが過去の当院は、スタッフ数や設備に限界があり、そこまで高度な医療が提供できていませんでした。一方、病棟には寝たきりのご高齢の方が多く入院されていました。こうした背景から診療体制を見直し、質の高い看護や介護、そしてリハビリテーションを提供していくことで、患者さん本人とご家族に安心していただく病院になることが重要だと決意。病院の方向性を変化させ、私自身も「外科の医師から高齢者医療を専門とする医師になるべきだ」と考えました。例えば、脳卒中で倒れたとしても、急性期の治療が終われば、まだ、その先に長い人生があります。最期まで幸福でいるための看護や介護、そして医療を行っていきながら、すべての患者さんに「いかにして生を全うしていただくか」が大切だと思うんです。
看護師などスタッフの考え方も、急性期病院とは違いますか。
スタッフには、患者さんを看取ることまで含め、長い入院生活を支えることを第一に考えたケアを提供してほしいと伝えています。例えば「身体抑制をしない」、「褥瘡をつくらない」、「摂食嚥下障害があってもご飯を食べていただく」などをはじめとした入院生活の質、つまりQOLを高めるための支援ですね。当院では、これらの支援を基本に、食べることの意義や仕組み、認知症や胃ろうの問題について、入浴や排せつケア、さらには人間の尊厳や倫理感など、高齢者をお世話する上で知らなければならないことについての勉強会を定期的に開いています。当院には80人強のスタッフがおりますが、各部署は小さな所帯ですから、顔の見える関係が築けていますよ。唯一、看護介護部だけは約30人という大所帯。私の目が行き届かないところは、看護部長がまとめ役を果たしてくれています。
外来では、どんな診療をされているのでしょうか?
一言でいえば「かかりつけ医」です。専門の外来が集合した総合病院ではなく、医師がそれぞれの専門性を生かしながら、幅広い診療を行うイメージを持っていただけると良いと思います。医師同士、相談や連携も活発で、治療できない疾患があれば急性期病院に適切に紹介しますのでご安心いただければと思います。私と副院長は消化器疾患を専門としているため、消化器疾患の診断は特に力を入れています。また、私は日本大腸肛門病学会大腸肛門病専門医でもあるため、お尻にまつわる病気の診断・治療もお任せください。痔で悩んでいる人は多いのですが、最近は手術をしない治療の方法も進歩してきているんですよ。また、胃がんをはじめとした各種検診にも注力していて、内視鏡検査は予約なしで検査が可能です。こうしたフットワークの良さも当院の特徴と言えるかもしれません。
地域の方々や読者の方々にメッセージをお願いします。
医療をとりまく環境は厳しくなっていますから、小さな病院の管理者としての苦労は絶えません。ですが、医師としてはとてもやりがいを感じています。いろんな病気の方、いろんな人生を過ごしてきた方と出会えて、喜びも悲しみも一緒に経験できる。そんなドラマチックな毎日を送れることをありがたく思っています。今後も、病棟では高齢者の人生を見つめ支える医療・介護を、外来ではかかりつけ医として地域住民の健康を守る医療を提供していきます。現代は2人に1人ががんになる時代といわれていますから、がん検診にもっと力を入れていきたいですね。特に乳がんは若いうちから発症する可能性があります。当院でも乳がん検診を行っていますが、読者の皆さまも、ある程度の年齢になったらぜひ、がん検診を受けていただきたいと思います。
吉田 勝俊 院長
1987年北海道大学医学部卒業。東京女子医科大学病院消化器外科にて大腸や肛門にまつわる疾患の診療や研究に従事。その後、初代院長だった祖父、歴代院長である叔父や父親の後を継ぎ1997年より現職。日本内科学会総合内科専門医、日本外科学会外科専門医。医療が身近にあった家庭環境から、自然と医師の道を志す。学生時代はスキー部に所属し、クロスカントリーに熱中。