飲酒習慣の有無にかかわらず要注意
合併症も多い「脂肪肝」
国家公務員共済組合連合会 虎の門病院
(東京都 港区)
最終更新日:2022/06/13
- 保険診療
受けたダメージを修復する機能である「予備能」の高さゆえ、異常を早期に発見しにくい肝臓。だるい、むくむ、肌が黄色がかっているといったわかりやすい自覚症状が出たときには既に進行していることが多いため、「沈黙の臓器」とも呼ばれる。肝臓の病気としてよく知られるC型肝炎が減少する一方、増加しているのが「脂肪肝」だ。脂肪肝は、肝臓に脂肪が蓄積される病気。放置すると肝硬変や肝臓がんのリスクが高いため、早期の対処が重要だ。芥田憲夫部長に話を聞いた。(取材日2022年5月13日)
目次
肝がんのリスクを高める脂肪肝。診断されたら、入院を活用して生活習慣の改善を
- Q脂肪肝とはどのような病気ですか。
- A
脂肪肝は、摂取するエネルギーと消費エネルギーのバランスが崩れ、肝臓に中性脂肪が蓄積されることによって起きる疾患です。脂肪肝には「アルコール性脂肪肝」と、メタボリックシンドロームに関連した「非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)」があります。またNAFLDの中には、将来的に肝硬変や肝がんに進行する可能性がある非アルコール性脂肪肝炎(NASH)もあるため、早期に発見して治療を開始することが大切です。脂肪肝からの3大死因は、心血管疾患、肝臓以外のがん、肝臓病の進行で、肝臓の硬さに伴ってリスクが増加します。
- Q治療のアプローチについて教えてください。
- A
現状、脂肪肝の薬物治療において承認された薬剤はありません。そのため、現時点では、適切な運動と食生活の改善が適した治療法です。当院では、体成分の数値を前回と見比べることでモチベーション維持を図っています。また、当科では、2021年6月から、脂肪肝の改善を図るための入院を開始しました。6日間の入院で、適切な食事・運動療法が行えるよう全面的にサポートします。
- Q検査はどのように行うのですか。
- A
まずは、一般的な健診で行われているのと同じ血液検査と、CT検査、MRI検査、超音波検査などの数値を総合的に勘案して、肝臓の大きさや硬さとともに脂肪のたまり具合をもとに脂肪肝かどうか、脂肪肝であればどの程度進行しているのかを診断します。血液検査だけではわかりにくい脂肪肝も、画像診断を併用することによって判別できる可能性が高まります。もし、この時点で肝炎などの合併症が疑われれば、肝臓の一部を採取して詳しく調べるための肝生検が行われます。
- Q肝疾患相談センターについて教えてください。
- A
肝疾患領域では、C型肝炎の治療の進歩に伴って、ウイルス性肝炎の患者さんが減少しています。一方で、めざましい進化を遂げる治療の情報をキャッチアップできず、適切な治療につながれていない患者さんが少なくありません。当院では、東京都の肝疾患診療連携拠点病院として、患者さんへの情報提供を担い、肝疾患に関する総合的な相談に対応する「肝疾患相談センター」を設置しています。また、センター長の鈴木義之特任部長と連携して、患者さんをはじめ地域にお住まいの方、医療従事者を対象とした研修会や講習会も開催しています。
- Q今後の展望をお聞かせください。
- A
近年の肝臓病学における潮流は、C型肝炎が克服され、脂肪肝や肝がんへと課題がシフトしつつあります。前述したとおり、私が専門にしている脂肪肝、特に非アルコール性脂肪性肝疾患は、肝がんの主な原因の一つです。また、非アルコール性脂肪性肝疾患のほか、肝がん、そしてB型肝炎も、まだまだ克服できていません。これら3つの疾患の克服をめざして、臨床治験も含めた先端の医療を虎の門病院肝臓内科から世界に向けて発信してまいります。
芥田 憲夫 肝臓内科部長 兼 肝疾患相談センター 副センター長
1995年岐阜大学医学部卒業。虎の門病院で内科研修を行い、2000年肝臓内科医員、2012年肝臓内科医長、2022年肝臓内科部長に就任。虎の門病院肝疾患相談センター副センター長、治験・臨床研究部臨床研究センター長、藤田医科大学医学部客員講師を兼任。日本肝臓学会肝臓専門医、日本消化器病学会消化器病専門医。
鈴木 義之 肝臓内科特任部長 兼 肝疾患相談センター センター長
1985年岐阜大学医学部卒業。同年東京女子医科大学附属消化器病センター消化器内科入局。至誠会第二病院消化器内科部長 を経て、1994年より虎の門病院勤務。肝臓センター肝臓科医長、虎の門病院分院臨床検査部部長、肝臓内科部長など歴任。2022年より肝臓内科特任部長と肝疾患相談センターのセンター長に就任。日本消化器病学会消化器病専門医、日本肝臓学会肝臓専門医、日本消化器内視鏡学会消化器内視鏡専門医。