治療後の長期的な支援体制も鍵をにぎる
間脳下垂体疾患の治療
国家公務員共済組合連合会 虎の門病院
(東京都 港区)
最終更新日:2022/08/22
- 保険診療
- 下垂体機能低下症
- 下垂体腺腫
「間脳下垂体」は、頭蓋底部にあって、神経やホルモンのコントロールを担う場所だ。そのため、この領域に腫瘍などができて働きを阻害すると、体のさまざまな場所に不調が現れることがある。悪化すると命に関わることも少なくないため、できるだけ早期に、患者一人ひとりの状態を見極めた治療を行うことが大切だ。間脳下垂体疾患に特化した部門として、豊富な臨床経験に基づく専門的な治療を行う「虎の門病院」間脳下垂体外科部長の西岡宏先生に、間脳下垂体疾患の概要と治療について聞いた。(取材日2021年10月4日)
目次
内分泌内科、小児内分泌内科をはじめ各科と連携。一人ひとりの状態に合わせて、専門性の高い治療を提供
- Q間脳下垂体疾患とは、どのような病気ですか。
- A
大脳中央深部にある間脳とそこから下方(頭蓋底)に連なる下垂体は神経組織と内分泌組織の接合点にあたります。間脳の役割は自律神経の調整など多岐におよび、さらに下垂体からのホルモン分泌も介して全身組織を制御しています。当部門ではこの領域に生じるさまざまな病変の診療を専門的に行っています。これには下垂体から発生する先端巨大症、プロラクチノーマ、クッシング病などの機能性(ホルモン産性)下垂体腺腫、非機能性腺腫、ラトケ嚢胞、胚細胞性腫瘍、下垂体炎など、下垂体近傍から発生する頭蓋咽頭腫など、また下垂体機能低下症などが含まれます。これらの診療には脳外科と内分泌両方の専門性の高い知識と技術が求められます。
- Q内分泌内科との連携が重要と伺いました。
- A
主な対象疾患である下垂体腺腫や下垂体近傍疾患は、診療の視点でいうと脳外科と内分泌内科にまたがる領域であり、双方の視点からの多面的かつ総合的な診療が欠かせません。治療時にホルモンの知識が必要であることも、緊密に連携している理由の一つですね。治療の評価を行うのは内科なので、術後の治療計画を立てる上でも、信頼関係に基づいた一体感ある診療体制を構築しておくことが重要です。各科との連携と、この治療のエキスパートとして蓄積してきた豊富な臨床経験をもとに、一人ひとりに合った満足度の高い治療を提供できるよう努めています。
- Q小児の治療においては、どのような点を重視していますか?
- A
小児の場合、治療と並行して成長を支える必要があるため、小児内分泌内科と連携して治療を行います。ホルモン治療が必要になると、病気そのものが落ち着いてからも長いお付き合いが続きますから、長期的な視野で連携体制を確立し、一人ひとりのお子さんの人生に寄り添っていくことが重要ですね。特に女性の場合、成長後に妊娠や出産をサポートすることも少なくありません。常に適切なフォローができるよう、地域の内分泌内科や脳神経外科とも連携体制を構築しながら治療後のフォローが可能な診療体制を取っています。
- Q間脳下垂体疾患に対しては、どのような治療を行うのですか?
- A
前述したとおり、脳と内分泌にまたがる疾患であるため、内分泌内科や小児科などの関連各科と協力し、一般の脳外科とは異なる総合的な診療を行います。外科的な治療が必要な場合、経鼻内視鏡を用いた低侵襲治療が基本ですね。巨大腫瘍や、重要な血管を巻き込んだ腫瘍、再発腫瘍などの難治例に対しては、経鼻手術と開頭術を同時に行う開頭経鼻同時下垂体腫瘍摘出術など、多彩な術式を駆使して安全で確実な腫瘍摘出をめざします。その他、ホルモン補充療法、放射線治療など、患者さんの特性や症状に応じて、より良い予後を視野に入れた個別化した最善の治療を選択・提供することを心がけています。
西岡 宏 間脳下垂体外科部長
1986年東京医科大学卒業。その後、大学病院、海外での勤務などを経て2010年より虎の門病院勤務。2018年より現職。専門分野は間脳下垂体疾患の診断と治療。日本脳神経外科学会脳神経外科専門医、日本内分泌学会内分泌代謝科専門医、日本間脳下垂体腫瘍学会理事、日本内分泌学会監事。