社会福祉法人恩賜財団済生会 横浜市南部病院
(神奈川県 横浜市港南区)
猿渡 力 院長
最終更新日:2024/07/08
救急体制充実とチーム力で輝く総合病院
1970年代の人口急増を受け、1983年に横浜市と社会福祉法人恩賜財団済生会が共同で設立し、同会が運営にあたってきた「横浜市南部病院」。当初は医療面でのケアが立ち遅れがちだった横浜市南部地域の中核的な病院として、40年以上にわたり地域に尽くしている。二次救急医療に対応する救急告示病院として、数多くの救急受け入れに対応。特に内科・循環器領域での救急医療に注力し、地域医療において核となるような役割を果たしている。循環器内科の医師として20年以上同院の診療に携わり、2024年4月から院長を務める猿渡力(えんど・つとむ)先生は「私はこの病院が大好きなのです。だからこそ、地域にも、働く皆さんにも好きになってほしい」と笑顔で語る。そんな猿渡院長に、同院の強みと課題、今後の展望などについて詳しく聞いた。(取材日2024年6月11日)
院長ご就任前から病院運営には関わっていらしたそうですね。
この病院には20年以上勤務しており、副院長としてさまざまな現場課題に取り組む機会もありました。数年前には病院理念を更新するプロジェクトにも参加し、診療部長やコメディカルスタッフらも交えて議論。「思いやりの心と質の高い医療で、地域の皆さまから信頼される病院をめざします」という理念を掲げました。開院以来、4つの基本方針を掲げて病院運営を行ってきましたが、地域医療の中核を担う病院として、誰にでもわかりやすく、すぐに口にすることができるメッセージが必要と考えての更新です。現在の当院のあり方を単純明快に表すものとして、広く受け入れられていると感じます。このプロジェクトを通しても、現場の医師はもちろん、医療スタッフら当院で働く多くの人たちの意見を耳にすることができました。今後の病院運営に大いに役立てたいと考えています。
新院長として、どのような課題に取り組んでいかれますか。
救急医療を主として担う病院でありながら、それに特化しきれていないのが現状の課題です。社会の高齢化により高齢者の救急搬送が増え、入院が長期化する傾向にあります。必然的に病床の回転率が低下し、次の救急応需が難しくなるケースも。500床ある病床のうち、半分を手術などの予定入院に、半分を救急対応にあてるのが理想ですが、どうしても救急の比率が高くなってしまうのです。従来からの問題ではありましたが、ここ数年の新型コロナウイルスコントロールで後回しにされてきました。ようやくコロナ禍を脱したところで仕切り直し、課題解決に向けて病病連携を強化していきたいと考えています。近隣の病院との連携を強め、治療方針の決まった患者さんの早期受け入れをお願いするのです。状態の落ち着いた方はもちろん、治療方針さえ立てば転院先での治療継続も可能となるでしょう。いざという時のために役割を果たせる準備を整えたいと考えています。
こちらの病院の強みはどこにあるとお考えですか。
内科、外科をはじめ、脳神経、循環器、周産期など、7列体制で対応する救急医療です。特に循環器疾患では、24時間365日専門の医師が在勤する体制を開院以来維持しています。心筋梗塞などは1分1秒でも早い対応が望まれ、来院から90分が鍵とされます。循環器の医師は当直が多いなど負担も大きいですが、矜持を持って取り組んできました。また、脳神経分野でもメンバーを刷新して救急体制を再整備。現在、土日はオンコール対応となりますが、こちらも24時間365日対応をめざして尽力しているところです。また、がん医療にも注力しています。乳がん部門を独立、増強し、遺伝性がん診療を含むがん医療を充実させています。他に、整形外科や歯科口腔外科でも質の高い医療を実践できるよう体制を整えています。
幅広い分野で強みを発揮されているのですね。
はい。それに加え、何より私が当院の強みと感じているのは、優秀な医師だけではなくコメディカルスタッフも加えてのチームワークです。当院では医師以外のスタッフにも光る人材が多数おり、何かことが起こると一枚岩になって力を尽くす風土があります。新型コロナウイルス流行期に、改めてそれを実感しました。流行初期に院内で初めてクラスターが発生したのは夏季休暇中の日曜夕方でした。翌日からの外来や予定入院・手術をどうするか悩みは尽きない状況で、「可能な人だけで良いから集まってほしい」と連絡したところ、日曜夜にも関わらず30人を超えるメンバーが病院に集結しました。医師はもちろん、看護師、薬剤師、事務スタッフもです。必要となる作業を一つ一つ確認する中で、各自が自然と手を挙げて分担。全員の力で危機的状況を乗りきることができました。実のところ、このチーム力なしに院長職を引き受けることはなかったと思っています。
長く現場を見てきたからこそわかる魅力ですね。
この魅力を守り、育てていくことが院長としての使命と感じます。私自身は仕事が生きがいのようなところもありますが、個人の熱意や情熱に頼るやり方は、本当にサステナブルなのだろうかと疑問も持つようになりました。価値観が多様化する中で、ワークライフバランスを考慮し働きやすい環境を整えることこそ、私の大好きな「横浜市南部病院」の価値を守ることにつながるのではないかと思うのです。院長就任後、顔を合わせてのミーティングに加え、各部署のヒアリングや現場で、さまざまな課題や思いにふれてきました。現場はすべて疲弊しているかと思いきや、意外に元気な病棟もあれば、涙ながらに状況を訴えるような病棟も。多様な要因が現場の活気に関わるのだと実感します。めざす医療を実践するためには、病院で働く人が元気でなければなりません。だからこそ、地域にとってと同じくらい、スタッフにとっても良い病院にしたいと考えています。
猿渡 力 院長
横浜市立大学医学部卒業。医学博士。2002年、社会福祉法人恩賜財団済生会横浜市南部病院循環器内科に主任部長として着任。専門とする急性肺血栓塞栓症を中心とした循環器疾患の診断・治療に尽力する傍ら、24時間365日の救急医療体制を支えるため、月5回の当直や10回以上のオンコールも担当する。2024年4月、同院長に就任。思いやりと質の高さにこだわった医療で地域に信頼される病院をめざす。