医療法人正永会 港北病院
(神奈川県 横浜市保土ケ谷区)
山口 哲顕 病院長
最終更新日:2023/09/22
患者の社会復帰を支える「開かれた精神科」
横浜市保土ヶ谷区新井町の「港北病院」は、心地よい風が渡る丘の上の精神科病院。JR横浜線の鴨居駅や相鉄線の西谷駅からバスで10分ほどの千丸台団地停留所から、眺めの良い丘を5分ほど上がると到着する。この停留所には「横浜」駅西口からのバス便もあるという。明るい日差しが差し込む院長室で、迎えてくれたのは柔和な眼差しが印象的な山口哲顕病院長。1961年に先代が個人病院として創始した同院を継承し、さらに現在の形へと発展させてきた。「子どもの頃から患者さんたちと関わってきて、病院を継ぐことが当たり前のようでした。今でも『先生、長生きしてね』なんて言われます」と笑う山口病院長の笑顔は、どこまでもやさしい。保土ヶ谷区医師会にも所属している山口病院長に、病院の成り立ちや特色、さらには精神科医療の今後などについて、幅広いテーマで話を聞いた。(取材日2016年12月12日/情報更新日2023年9月11日)
まずは病院の成り立ちと診療科目について簡単に伺えますか?
私の父が1961年に64床を有する木造平屋建ての精神科個人病院として創設したのが「港北病院」のはじまりです。横浜港の北側に位置していること、また当時はこの場所が横浜市港北区であったことなどから、「港北病院」の名称が採用されたようです。精神科の外来、入院病棟を柱に、組織変更を繰り返しながら、現在の210床の体制になりました。入院患者の口腔健康を支えることを目的に、1994年には歯科を新設。現在は2つの診療科で外来診療と病棟運営を行っています。
病院の特色としては、どのようなことが挙げられますか?
精神科病院というと、過去には入院中心の施策が取られたこともありました。それに対し当院では患者さんが「外に出て行く」ための支援に力を入れています。2004年にデイケアセンター、2009年には訪問看護を開始したのもそのためです。精神を病むことで、患者さんの生活能力はどうしても下がりがちになります。そうした患者さんが社会に出ることを支援し、生活の幅を広げるためのサービスです。精神科では退院後すぐに社会復帰が難しい方も多いもの。デイケアに通所いただきながら徐々に生活に慣れていただき、同時に訪問看護によりご自宅の様子を確認しつつ社会復帰を進めるというのが、当院のセオリーです。もちろん、入院中から病棟での作業療法には力を注いでいます。作業療法士も多数在籍しており、カラオケ、体操、パズルといった院内活動から、電車に乗って買い物に行くなど院外での生活訓練などで、精神と身体両方のリハビリに努めています。
外来診療ではどのようなことを心がけて運営していますか?
私自身、患者さんに接する時には、初対面から「長いお付き合いになる」ことを想定して、信頼関係を築くコミュニケーションを心がけています。精神科は他科に比べて「言葉」に重きが置かれる診療科です。誠実な人間関係を築くための言葉がけが重要になります。また、一般的に医師は経験を積んだベテランの方が成果を挙げることが多いですが、精神科に限っては新人の熱意が患者さんに大きく作用することもあります。初心を忘れず、患者さんの立場に寄り添うことこそ、精神科医療では成果につながるということは、当院のスタッフには常々伝えています。創設以来、当院の外来は予約制を導入したことがありません。これは、気分の浮き沈みをコントロールすることが難しい患者さんが、思い立った時にいつでもご来院いただけるようにするため。時には待ち時間が長くなったり、時間内に診療が終わらなかったりもありますが、診療時間を延長するなどして対応しています。
今後の展望についてお聞かせいただけますか?
今、精神科の医師がやるべきことは、外に出て行くこと。病院で患者さんを待つだけでなく、病院外に出て精神科医療について、正しい情報を伝えることだと考えています。当院は、地域のクリニックとの連携も強化しており、他科からの紹介という形でも多くの患者さんをお受けしています。胃潰瘍や高血圧など、内科的症状の原因が精神にあることはよくあります。症状の再発を防ぐためにも、原因となる精神の不調にも目を向けて、同時にアプローチしていくことが重要です。さらに、精神科を持たない病院やクリニックなどでも、要請があれば往診という形で医師を派遣していきたいと考えています。とにかく「精神科の敷居を下げること」、これが今後は最大の課題となると思っています。また、医師が持たない患者さんの情報について、ナースやケースワーカーが把握していることも多々あります。こうした他職種連携も今後力を入れていきたい部分です。
読者に向けてひと言メッセージをお願いできますか?
内科などの他科に比べて、精神科はなかなか足を運びづらいところと思われてきた傾向があります。これは、皆さんが精神疾患について、自分に関わりのない、特別なものと考えてこられたからではないでしょうか。胃痛の延長に胃潰瘍や胃がんがあるのと同様に、日常的な不眠や食欲低下、やる気の低下などの延長にあるのが精神疾患です。薬に関しての誤解も多いように思いますが、精神疾患は適切な薬を適量服用することで、治すことが期待できる病気です。心の病を特別なものと捉えず、まずは気軽に相談していただければと思います。
山口 哲顕 病院長
1982年日本医科大学卒業後、日本医科大学付属病院精神科、横浜市立大学医学部病院精神科等に勤務。2003年1月より医療法人正永会港北病院病院長。現在、神奈川県精神科病院協会会長、横浜市病院協会副会長、日本精神神経学会代議員。医学博士、精神保健指定医、日本精神神経学会精神科専門医。