医療法人財団明理会 鶴川サナトリウム病院
(東京都 町田市)
林 重光 院長
最終更新日:2024/09/30
高齢者を全人的に診療できる病院へ
川崎市とも隣接する町田市東部エリアで、開設時から50年以上にわたって認知症医療に専門的に取り組んできた「鶴川サナトリウム病院」。認知症に対する地域の中核的な医療機関として、精神科、老年精神科と内科、老年内科、リハビリテーション科の分野から認知症患者やその家族を支え、地域の医療機関や行政との連携を推進している。林重光院長は「当院では地域の方々が住み慣れた環境で自分らしく暮らし続けることができるよう、これまでの認知症医療に加え、一般病棟、回復期リハビリテーション病棟の病床再編などで、高齢者医療を強化している」と話す。一方、認知症の前段階であるMCI(軽度認知障害)の人を対象としたトレーニングスタジオを開設し、認知症への進行抑制を図るなど、認知症予防にも意欲的だ。「今後はすべての病棟に個性を持たせ、高齢者の多様なニーズに応えられる病院をめざしたい」と語る林院長に、同院の近年の動きや認知症医療の特徴などを聞いた。(取材日2024年7月12日)
こちらの病院は認知症医療に力を入れていると伺いました。
当院は東京都や町田市と連携し、認知症疾患医療センターとして認知症に対する地域の中核的な役割を担う医療機関です。地域のさまざまな医療機関や介護サービス事業者の協力を得ながら、認知症やその前段階であるMCI(軽度認知障害)が疑われる方の鑑別診断をはじめ、合併症や行動・心理症状が進んできた際への対応、物忘れの外来診療、町田市受託事業である認知症電話相談などで、早期発見・早期対応できる医療体制を整備しています。また、地域共生社会をめざす中で、認知症への社会理解を深めるための普及啓発活動や、本人発信支援なども積極的に行っています。認知症の患者さんは病気で少し個性が強くなっていたとしても、一般の方と同様の「生活人(せいかつびと)」です。できる限り住み慣れた地域環境で、自分らしく暮らし続けることができるような体制づくりを推進しています。
具体的にはどのような体制づくりをされていますか?
大きな動きとしては、高齢の方々、特に認知症の患者さんに適切な医療を提供できるよう、病棟の再編を進めています。2024年5月に一般病棟、8月に回復期リハビリテーション病棟を新たに開設いたしました。近年、高齢者の軽症、中等度の救急搬送は増加傾向にあります。しかし、認知症があると入院先を探すのが難しいケースが多く、当院の一般病棟ではそうした方も速やかにお受けしたいと考えています。さらにこの病棟を窓口として、回復期リハビリテーション病棟で日常生活動作の回復支援、退院支援はもちろん、療養が必要な方には医療療養病棟、認知症への手厚い対応が必要なら専門の病棟で治療を継続していただくことが可能になりました。「認知症」があっても必要な医療を切れ目なく提供し、その先につないでいける体制が強化されました。
新病棟での特徴や強みなどを教えてください。
当院は50年にわたり、認知症の患者さんを診てきた積み重ねがあり、その経験をもとに多様な症例への対応がスムーズな点が強みの一つです。前述したように、病床機能拡充によって機能を多様化させたことで一般病棟では高齢者の救急にも対応できるようになりました。高齢の方々は治療を終えて一旦帰宅できたとしても、日常生活は誰かのサポートが必要な方も多く、そうした状況も考慮した対応が求められていると考えています。患者さんの症状や回復の状態に応じた病棟への転棟、あるいは患者さんや家族の意向に沿った退院先へつなぐため、さまざまな社会資源の選定を多職種でしっかりと介入していきます。また、指示が通りにくいという理由から受入れが難しい認知症の方へのリハビリテーションも、当院のリハビリテーション職が決して諦めずに介入し、ご自宅や地域に戻ることができるよう支援していけることが強みだと思います。
認知症の早期発見や予防などにはどう取り組まれますか?
物忘れの外来診療では、地域の医療機関などからご紹介のあった方に対し、専門の医師による鑑別診断をもとに必要な支援を行っています。しかしながら受診のタイミングは症状が出てからの方が多く、認知症の進行を止めるための薬剤も開発段階にある中で、治療の選択肢は限られてしまうのが現状です。そこで当院では認知症の前段階とされるMCIの方への対応を重視し、2022年にMCIトレーニングスタジオ「ASMO」を開設しました。MCIは放っておくと認知症に進行しますが、適切な予防をすれば健常な状態に戻る可能性が望めます。「ASMO」では、作業療法士を中心とした多職種が専門性を生かし、体を動かすことや頭を使うプログラムの提供、生きがいや目標を持ち続けていただくための社会資源の紹介、ライフスタイルの改善などを治療として医療保険で提供しています。また、地域の方々への認知症予防講座も開催し、MCIの啓発活動も行っています。
今後の展望や地域の方へのメッセージをお願いします。
これからは認知症の方を単に支える対象としてとらえるのではなく、一人の尊厳のある人として、その個性と能力を十分発揮しながら、「生活人」として暮らせる医療・介護の体制や地域社会の在り方が求められてます。当院は、これまでの認知症医療に加え、一般病棟や回復期リハビリテーション病棟の再編により、「入院してそれきり」ではなく、多職種チームで患者さんを包括的に診療し、身体的側面だけでなく、心理的・社会的にも目配りした、全人的医療ができる高齢者の多機能病院へと変化してまいります。当院の12病棟それぞれに個性を持たせ、当院に来られた患者さんが望む形に多様につなげていけるような病院にすることが目標です。簡単なことではないかもしれませんが、世界で最も高齢化が進んでいるわが国において、関係者が連携し、知恵を出し合い、地域生活継続のために全力を尽くす医療を提供していくことを使命として頑張ってまいります。
林 重光 院長
1993年帝京大学医学部卒業後、東京医科大学血液内科学分野に入局。狭山神経内科病院副院長、明理会中央総合病院副院長、イムス横浜東戸塚総合リハビリテーション病院院長、明理会東京大和病院院長などを経て、2022年より現職。専門は血液内科と神経内科。医学博士。