川崎医療生活協同組合 川崎協同病院
(神奈川県 川崎市川崎区)
田中 久善 院長
最終更新日:2021/10/20
誰もが平等に受けられる医療を
近年の日本では、貧困と格差が社会問題となっており、必要な医療が受けられない医療難民や介護難民も多く生まれてきている。そんな地域の社会的弱者へも機会平等に医療を受けられるようにと日々努力するのが「川崎医療生活協同組合 川崎協同病院」の田中久善院長だ。田中院長は、若い頃、同病院で初期研修を受けた際、往診にも携わっていたそうだが、その往診でのさまざまな経験から地域医療の重要性に思い至ったという。「診察の際は、単に病気を診るだけでなく、その患者さんの生活状況や社会的・経済的背景までしっかり読み取って、それぞれの状況に対応していくことが大切ですね。さまざまな格差が生まれている時代だからこそ、私たちの出番だと自負しています」と穏やかに話す田中院長。そんな田中院長に病院の特徴などについて聞いた。(取材日2017年11月10日)
病院の成り立ちについて教えてください。
当病院は、1956年に川崎区大島町の借家に開設した「四ツ角診療所」がそもそものスタートです。その後1965年に「四ツ角病院」になり、1976年にはその病院を発展的解消して新たに156床の「川崎協同病院」として生まれ変わりました。さらにその後、1994年に267床の総合的機能を持つ医療機関としてリニューアルオープンしました。川崎医療生活協同組合の医療機関ですので、地域の組合員の方々の出資や協力に基づいて作られた地域住民の暮らしに根づいた病院です。開設当初から、「医療は病院や診療所の中だけではない、地域住民の中にある」という精神のもと、地域住民や生協組合員と協力しながら、さまざまな地域医療を実践してきています。かつて公害が激化した頃は気管支喘息や慢性気管支炎などの患者さんが多く、公害をなくす運動に尽力したり、小児まひから子どもを守る運動なども行ってきた歴史があります。
こちらの病院の基本理念はどんなことでしょうか。
無差別、平等の医療と福祉を地域の人々とともに進めていくということです。この地域でも高齢化が進んでおり、ご高齢の方々や生活環境が整っていない方なども多いですが、そういった方々でも差別することなく安心して受診していただける病院をめざしています。ご高齢の方で年金だけでは生活が苦しい、医療費の支払いが難しいという場合も多く、中には、薬の飲む量を節約して通院回数を減らすといったケースも見られます。最近では子どもの貧困も目立つようになってきています。そうした方々でも必要な医療を受けられるように、当病院では、無料・低額診察事業を行っています。また、当病院では差額ベッド代は徴収せず、安心して療養していただけるように取り組んでいます。現在、貧困と格差が社会問題化していますが、こういう時代こそ私たちの出番であり、大きな意義があると自負しています。
診療面での特徴はどんな点でしょうか。
まずケアミックス病院である点です。現在、急性期病棟、地域包括ケア病棟、回復期リハビリ病棟、障害者病棟という4つの機能を持つ病棟をそろえており、急性期から回復期を経て在宅復帰までシームレスな地域包括医療を実践しています。当病院で急性期を過ごした患者さんだけでなく、他の病院で急性期治療を受けた方がワンクッションとして入院する場合もありますし、回復期リハビリテーションのために入院し、最終的には在宅、社会復帰へとつなげられるよう、地域の医療機関や福祉事業所などとの連携も密にしています。また、夜間でも透析が受けられる透析の外来や、在宅介護を行っているご家族のレスパイトとして患者さんの短期入院や、重症心身障害児の日中預かり事業なども行っています。これらの患者さんは、当病院の専用車で送迎サービスを行っています。また、通院が困難な患者さん宅への往診も行っています。
まさに地域に根差した医療を提供しておられるのですね。
往診は35年前、私がこの病院で研修を受けた頃から続いています。当時は診療報酬がついていなかったのですが、ここでは先駆け的に行っていました。私も往診に携わりましたが、その経験から地域医療の重要性に気づきました。私は診療をする際、単に病気を診るのではなく、患者さんの社会的背景や家庭環境にまで目を向けることが重要と考えています。もしも患者さんが何か生活面で困っていることがあれば、医療ソーシャルワーカーが相談に乗り、必要であれば福祉施設の各種サービスを紹介するなどして、地域内でのサポートにつなげることもできます。当病院は基幹型臨床研修病院で研修医を受け入れ指導していますが、研修医たちにも単に診療するのではなく、患者さんの社会的背景を聞きとる力量を身につけるようにと指導しています。患者さんの生活背景までをよくくみ取って、それぞれこまやかに対応することが、地域の医療機関として求められていると思います。
では最後に今後の展望をお願いいたします。
川崎医療生協は当病院のほかに7つの診療所と1つの介護老人保健施設がありますが、これらの医療機関に加え、近隣の急性期病院やクリニック、福祉事業所などともさらに深い連携を取りながら、地域包括医療を充実させていきたいと思います。そのためにも優れたドクターが必要ですので、優秀なドクターたちを増やしていきたいですね。ご高齢の方は、内科疾患に加えて整形外科疾患など数多くの疾患を抱えておられることが多いですから、専門外の分野でもある程度診断ができる力がますます重要になってきます。ですので患者さんを全体的に診られる「総合診療を行える医師」を育てていきたいですね。この病院も開設して20年たちますので、設備が少し老朽化してきています。できれば近いうちに建て替えリニューアルしたいと考えています。そしてさらに地域住民の方々が分け隔てなく、安心して暮らしていける医療を提供していきたいと思います。
田中 久善 院長
1982年横浜市立大学医学部卒業。川崎協同病院などで研修医を務めた後、1984年に川崎協同病院勤務。その後東京都老人医療センター(現・東京都健康長寿医療センター)に研修出向し、1987年に川崎協同病院に戻る。2012年より現職。専門は内科、循環器内科。日本循環器学会循環器専門医、日本内科学会総合内科専門医。単に病気の診断だけでなく、患者の社会的背景まで含めて全人的に診ることを重視して診療にあたる。