独立行政法人 労働者健康安全機構 関東労災病院
(神奈川県 川崎市中原区)
根本 繁 病院長
最終更新日:2020/12/10
市民に開かれ、信頼され、安心できる医療を
東急東横線武蔵小杉駅から元住吉駅方面へ歩くこと約7分。綱島街道を挟んだ中原平和公園の向かいにあるのが「関東労災病院」だ。京浜工業地帯に働く人たちの労働災害に対応するための病院として1957年に誕生した同院は、時代の流れとともにその役割を変え、現在は30を超える診療科を備える地域の基幹病院として急性期を中心に幅広く医療を提供することで人々の健康を支えている。そんな同院の病院長を2019年4月から務め、「市民の皆さんに開かれ、信頼され、安心できるような医療を心がけています」と語る根本繁先生に同院について話を聞いた。
(取材日2020年10月23日)
貴院を紹介していただけますか?
当院は労災病院ということで、この辺りの京浜工業地帯の工場で働く人たちの労働災害に対応するための病院として1957年に開院しました。しかし、現在はこの周辺地域にあった町工場もほとんどなくなってしまい、全国的に見ても炭鉱や公害もほとんどなくなったことで、経営母体である労働者健康安全機構も労働災害だけを対象にするのではなく、全国の労働者の健康と安全のための勤労者医療に取り組むという位置づけになっています。ですから、当院も労働災害にはもちろん医療の一部として対応していますが、現在は以前のような労働災害を中心とした病院ではなく、地域の住民のための医療を行うことを心がけており、一般急性期からリハビリテーションまで幅広い医療を提供する川崎市の中核病院として地域医療を担っています。そして、その中でも地域のニーズが高い救急医療とがん診療を2本柱に医療に取り組んでいるところです。
救急医療とがん診療への取り組みについて、教えてください。
救急医療では、2次救急に対応しています。この辺の地域性からいうと高齢者が多いのですが、それだけでなく比較的若い人口の流入も多く、働き盛り世代の人も多いのです。このような地域の多様性に合わせた医療も行わないといけないということで、高齢者の転倒による骨折などに加え、心筋梗塞や脳卒中の救急患者の受け入れに力を入れています。循環器疾患と脳血管疾患の両方で救急隊とのホットラインを設け、受け入れを24時間断らない体制を整えています。がん診療については、がん診療連携拠点病院に指定されており、あらゆるがん疾患に対し積極的に対応しているところです。肺や消化器、子宮、乳腺、血液のがんなどに対して手術治療や放射線療法、化学療法に加え、リハビリテーションやがん患者さんの就労支援などにも取り組んでいます。救急医療とがん診療のさらなる充実に取り組んでいきたいと考えています。
ほかに、特徴はありますか?
整形外科も特徴の1つで、外傷や関節、脊椎、手の外科、スポーツ整形外科などのそれぞれにスペシャリストがそろい、手足や脊椎の骨折から靭帯、腱の損傷、股、膝などの関節疾患、椎間板ヘルニアや腰部脊柱管狭窄症などの脊椎疾患まで、ほとんどすべての整形外科疾患に対応しています。高齢者であれば、大腿骨の骨折の治療や股や膝の人工関節手術なども多く行っています。また、スポーツ整形外科は国内でも早い時期に診療をスタートし、現在は約60種目のスポーツの幅広いレベルの選手の治療に対応しております。加えて、手の外科部門があり、指を切断してしまった場合には24時間体制で、切断された指をつなぐ手術を専門のチームで行っています。時には、ヘリコプターで患者さんが搬送されてくることもあるなど、非常に特徴的かと思います。
病院を運営する上で心がけていることを教えてください。
まず、最新の医療を提供することをめざしています。循環器内科では、急性の心筋梗塞に対するカテーテル治療や不整脈のアブレーション治療も24時間行える体制を整えていますし、私の専門でもある脳神経外科では、従来は治療が難しかった大きな動脈瘤に対して、ステントを用いた治療を行っています。もう一つは、経営改善です。医療は人だけでできるものではなく、いろいろな機材や設備が必要になりますし、今の設備は高額なものも多いですから、それらを導入するにはそれなりの資金が必要です。自分たちの診療によって資金を得て、必要な設備を備えることで医療の質を高め、より良い医療を提供することを心がけていきたいと思っています。
今後の展望とメッセージをお願いします。
脳神経外科については、私が来てから1年半がたって体制も整ってきました。そして、次はがん診療および救急医療のさらなる充実に取り組んでいきたいと考えています。また、救急車の受け入れも以前より増えています。救急では、断らない救急をめざしており、地域のあらゆる疾患を受け入れるようにしています。救急で来られる重症の方はもちろん入院となりますが、軽症の方にもう大丈夫ですから帰っても良いですよと言っても、それで元気に帰れる人もいれば、不安が残ってためらう方もいるんです。現状では、そういう方に入院してもらうのが難しいのですが、軽症でも不安感がある方々も入院できるような病床を用意して、安心して医療を受けられるようにしていきたいと考えています。そして、当院は市民の皆さんに開かれ、信頼され、安心できるような医療を心がけていますので、必要なときには心配することなく当院にいらしてくださいとお伝えしたいと思います。
根本 繁 病院長
1978年東京大学卒業後、同医学部脳神経外科に入局。ドイツ留学、カナダ留学、公立昭和病院脳神経外科医長、 東京大学医学部脳神経外科助手、東京警察病院脳神経外科医長、虎の門病院脳神経血管内治療科部長、自治医科大学血管内治療部教授、東京医科歯科大学血管内治療科教授などを経て2019年より現職。日本脳神経外科学会脳神経外科専門医、日本脳神経血管内治療学会脳血管内治療専門医。