公益財団法人紫雲会 横浜病院
(神奈川県 横浜市神奈川区)
須藤 文彦 理事長
最終更新日:2024/11/07


横浜市の精神医療を支える歴史ある病院
横浜市中心部から程近い、神奈川区神大寺町の高台にある「横浜病院」は、1909年に神奈川県で早くから精神科病院として設立されたという長い歴史を持つ病院だ。須藤文彦理事長は、祖父や父が病院運営を担う環境に育ったが、歯科、口腔外科分野に進み、関東近辺の総合病院などで口腔外科診療に携わってきた。2018年に公益財団法人紫雲会横浜病院会長に就任し、横浜病院に歯科、歯科口腔外科を開設。一般の歯科クリニックなどでは治療を受けにくい精神疾患患者の治療や、歯科恐怖症・歯科不安症といった患者の診療を行ってきた。2024年に理事長に就任。医科と歯科の連携に加え、さらに診療科の充実を図り、精神科的総合病院をめざしたいと語る。培われてきた同院の歴史や文化、経験を大切にしながらも、コロナ禍のような環境変化にも対応し、現代社会に求められる病院へと変革していきたいと意欲的な須藤理事長に、同院の特徴や今後の構想について話を聞いた。(取材日2024年7月29日)
こちらの病院の成り立ちについて聞かせてください。

当院は、1909年に神奈川県内の精神科病院「横浜神脳院」として設立され、1912年「横浜脳病院」に、1957年に「紫雲会横浜病院」と改称して現在に至っています。関東大震災や太平洋戦争などでの消失、再興などの苦難の歴史を経ながら、一貫して精神医療に取り組んできました。1980年代以降、精神障害者の社会復帰に注目した政策が展開されるのに伴い、当院も生活共同訓練施設や共同生活援助を行う施設を開設して、入院患者の社会復帰にも注力してきました。私は、祖父や父が病院運営を担う環境に育ちましたが、あえて歯科の道に進みました。2018年に父が亡くなり、法人の会長に就任するとともに、歯科、歯科口腔外科を開設。その後、2024年に理事長に就任しました。幅広い精神疾患の症状に対応する精神科病院としての運営に取り組みながら、私自身の総合病院での経験を生かし、医科と歯科が連携した医療を実践しています。
診療面には、どのような特徴がありますか。

精神科急性期治療病棟、地域移行機能強化病棟、精神療養病棟、精神科一般病棟を設け、統合失調症、うつ病などの感情障害、パニック障害や強迫性障害などの神経症、認知症など幅広く診療を行っています。入院治療においては、麻酔科医師と連携したmECT(修正型通電療法)も行っています。外来治療においては、デイケア、訪問看護などと連携し、患者さんの社会復帰を目的とした多様な精神医療とサービスを展開しています。地域から求められる当院の役割を認識して、急性期症状で来院される患者さんへよりスムーズに対応できる体制を構築し、また、患者さんが社会の中で生活していくための地域移行を進めるなど、急性期から慢性期、地域移行まで一括したサービスを心がけています。そのほか、横浜市在住で療育手帳を有する知的障害者を対象とした専門の外来を設けていることや、精神科指定病院として鑑定入院に対応していることも特徴です。
内科や歯科、歯科口腔外科についても教えてください。

内科では総合的内科診療を行っており、精神疾患を持つ患者さんの風邪や腹痛をはじめ、糖尿病や高血圧症といった生活習慣病などに対して、精神科医師との連携により、適切な診断、治療を行います。歯科、歯科口腔外科では精神疾患の患者さん、一般の方、両方の治療を行っています。精神疾患を持つ患者さんは、一般の歯科医院を受診しにくいため、歯や口腔の状態が悪い方が少なくありません。また、歯の診療が怖いという歯科恐怖症や歯科不安症といった方や、障害があるために歯科治療を受けられない方やお子さんに対して、全身麻酔で治療を行っています。精神疾患に関わらず、糖尿病や高血圧症など、有病者に対する歯科治療や、口腔外科として顎・顔面の痛みや、顎関節症、片頭痛、顔面不定愁訴に対する専門的な治療もしています。CT検査機器といった高度な医療機器も導入するなど、患者さんが安心して診療を受けられるよう環境を整えています。
地域の中で果たす役割や、展望について聞かせてください。

地域連携としては、精神科や内科、歯科クリニックからの紹介や急患の患者さんを受け入れ、地域の医療機関からのCT検査の依頼を受けたりといった病診連携を行っています。また、当院の入院患者さんが内科や外科で専門的な診療が必要な場合は近隣の病院に紹介し、逆に精神科病棟を持たない総合病院から精神疾患の患者さんを受け入れるなど、病病連携の体制を整えています。ただ、一般の病院にとって、精神疾患の患者さんの身体疾患の受け入れは非常に難しいのが現状で、盲腸などでも転院受け入れが極めて困難であることを経験しています。そこで、病院としての施設や機能をバージョンアップして、診療科を増やし、入院患者さんや精神疾患の患者さんの身体疾患についても当院でできるだけ対応できるように、精神科的な総合病院をめざしたいと考えています。具体的には、当院の患者さんにニーズの高い皮膚科や眼科の開設を視野に計画を進めているところです。
最後に、地域の皆さんへのメッセージをお願いします。

私は職員に対して、病院のルールを遵守して行った行為については、すべて私が責任を持つと伝えています。精神科病院として職員が安心して勤められる、プロとしての働き方ができるような職場環境が重要だと考えています。精神科医療を取り巻く環境も大きく変化しています。地域に必要とされる精神科医療を維持するためには、コロナ禍のような環境変化にも対応して病院機能を存続させることが重要です。今まで培われてきた当院の歴史や文化を大切にしながらも、社会情勢の変化に適応していくために、精神科、心療内科、内科、歯科、歯科口腔外科に加えニーズの高い診療科の充実と、医科・歯科の連携を図り、精神科的な総合病院をめざしたいと考えています。そして、患者さんやご家族、地域の医療、福祉、保健など多様な関係者の皆さんとの信頼関係を軸に適切な医療の提供に努める所存です。精神医療・歯科医療に関わることはどんなことでも気軽にご相談ください。

須藤 文彦 理事長
1995年神奈川県歯科大学卒業。口腔外科を専門とし、関東近辺の総合病院の口腔外科などで手術・外科診療に携わる。2018年公益財団法人紫雲会会長に就任するとともに、紫雲会横浜病院に歯科、歯科口腔外科を立ち上げ、入院患者や外来患者、障がい児施設の歯科治療に従事。2024年より現職。