自衛隊中央病院
(東京都 世田谷区)
鈴木 智史 病院長
最終更新日:2026/05/21


自衛隊病院としての責務と地域医療を両立
全国に11ある防衛省自衛隊病院の中で最も大きな組織である「自衛隊中央病院」。陸上自衛隊三宿駐屯地内に位置し、自衛隊の職域病院としての役割とともに、自衛隊として持つリソースを活用することで地域医療の一翼を担っている。500床を有し、多様な診療科を標榜する同院では、救急医療やがん医療、外傷治療などの急性期医療に従事。先端の放射線治療装置やPET-CTなどの医療機器を導入し、質の高い医療の提供に努めている。また、首都直下地震のような大規模災害や感染症パンデミックなどを想定した訓練を平時から継続して行い、発症時にも軽症から重症まで迅速に対応できる体制を整えるとともに、自衛隊病院としての任務と並行して地域の災害拠点病院や医師会との連携による災害医療の取り組みも進めている。どのような状況であってもあらゆる状態の患者に最後まで責任を持って診療をすること、そして職員の人材育成を責務とした同院の取り組みについて、鈴木智史病院長に聞いた。(取材日2026年4月15日)
御院はどのような役割を担った病院なのでしょうか。

自衛隊病院は防衛省自衛隊の任務を支えるという位置づけの病院であり、自衛隊中央病院はその中で最も規模の大きい病院になります。当院は、例えば、前方で負傷者がいれば、応急治療をして後送し、根治的治療やリハビリテーションを行う最終地点であるとともに、通常の部隊や小規模病院ではできない臨床経験を積むための実習、准看護師や診療放射線技師の育成、自衛隊衛生科の職員の人材育成を担っています。このように、臨床と人材育成という2つの役割を成り立たせるために、施設や医療機材、人材の充実を図っていますが、それらを何らかのかたちで平時に還元することも私たちの重要な役割です。地域の急性期医療機関として、救急診療、一般診療と事態対処において、自衛隊として持つリソースを地域住民あるいは国民のために役立てることで、自衛隊としての役割を果たしつつ地域の医療にも取り組んでいます。
日々の診療についてご紹介ください。

私たちは、どのような患者さんが発生するかわからない状況で能力を最大限に発揮しなければならないため、何か一つの分野に特化するのではなく、すべてにおいて一定の水準以上の医療を提供することを目標にしています。救急医療については24時間365日、一次および二次救急を受けています。現在は、重症度の高い患者さんを診る機会は少ないのですが、防衛省自衛隊の任務としても、人材育成の観点からも、もう少し重症度の高い患者さんを受け入れることができるように体制を整備しているところです。がん医療では、若い医師や各専門分野の医師が研鑽を積めるように、先端の放射線治療装置やカテーテル、手術機材をそろえています。今年度には手術支援ロボットを導入する予定で、ガイドラインに載っている治療については、当院で完結できることをめざしています。また、自衛隊員に多い尿路結石症や、女性自衛官の増加に伴い女性医療にも注力しています。
災害医療についてはいかがでしょうか。

地域の災害医療においては、災害拠点病院といった枠組みの中で役割が定められているため、今までは、能力があっても活動できないという背景がありました。しかし最近では、当院の災害に対するレジリエンシーや屋上ヘリポートといった機能を活用していこうという動きが進んでいます。その一環として、世田谷区および東京都西南部エリアの災害拠点病院や医師会との連携で、災害時には世田谷公園の脇に緊急医療救護所を設置し、中等症および重症患者さんを当院で受け入れ、域外での医療が必要な患者さんをヘリコプターで搬送するという流れが決定。年に1回、訓練も実施しています。災害時には自衛隊の一組織としての任務もあるため、そのバランスを取りながら、災害医療で最も重要とされる最初の72時間にどのような役割を果たすかについて議論を重ね、実行に向けて継続して訓練を行っていきたいと考えています。
新型感染症の流行時も機能を十分に発揮されたと聞きました。

感染症への対策として、1類・2類相当の患者さんを受け入れるためのハード面が整っているほか、自衛隊の特性として、基地内に住んでいる自衛官のための職域病床も有しており、新型コロナウイルス感染症のパンデミックが起こった時には、それらの病棟を速やかに開放しました。横浜港に帰港した大型クルーズ船の集団感染の際、受け入れ可能な病院がなかなか見つからない中で、即応体制が取れているのが自衛隊病院だということで、当院に白羽の矢が立ちました。当院では、与えられた任務を果たすために病床利用率はそれほど高くはないため、臨機応変な対応で2週間という短い期間に多くの患者さんを受け入れました。その後の蔓延期でも、ほかの医療機関での対応が難しい人たちを積極的に診療しました。地域の先生方からは今でも「あの時は本当に助かりました」、「今後も何かあったらよろしくお願いします」というお言葉を頂いています。
最後に、地域に向けてのメッセージをお願いします。

私たちは防衛省自衛隊の病院として、国を守るために人を派遣すると同時に負傷者が出たときには最後まで責任を持って診療する、そして、人を育てることを責務としています。一方で、私たちの持つ能力で地域に貢献できるよう、地域の皆さまから信頼され、この病院があるから安心して生活ができると思っていただけるような病院になれるように、職員一同、努めています。一般的な病院のようにオープンなつくりではないため、受診するにはハードルが高いと思われるかもしれませんが、地域の先生からもたくさんの患者さんをご紹介いただいています。一度来ていただければ普通の病院だということをわかっていただけると思います。何かお困りのときは気軽に受診してください。与えられた役割を果たすことに軸足を置きつつ、私たちが持っているマンパワーと施設、頂いている予算を活用し、地域の皆さま、そして国民のために頑張ってまいります。

鈴木 智史 病院長
1989年防衛医科大学校卒業。2003年自衛隊中央病院に赴任。2012年自衛隊札幌病院副院長、2017年自衛隊福岡病院病院長、2018年自衛隊中央病院副院長、2021年自衛隊札幌病院病院長を歴任し、2024年4月より現職。全国の部隊や病院での勤務を経験したほか、イラク復興業務支援隊としてサマワへの派遣や、東日本大震災での医療活動、国際緊急援助隊などにも従事。自衛隊医療と地域医療の双方に精通する。





