妊娠機能温存から出産まで支援
子宮がんなどの婦人科系がんの治療
国家公務員共済組合連合会 虎の門病院
(東京都 港区)
最終更新日:2022/08/16
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婦人科診療の柱である腫瘍、生殖、周産期、ヘルスケアの全領域に専門家がいる同科では、婦人科の悪性腫瘍に対する治療も得意分野の一つだ。悪性腫瘍の特徴や進行度に応じた治療はもちろん、それぞれの医師が得意分野を生かして術後の生殖補助医療から妊娠管理、周産期まで包括的にサポート。若くしてがんになり、将来的に妊娠を希望する患者のため、極力子宮や卵巣を残す治療に努め、ホルモン療法なども駆使しながら妊孕性の温存にも注力する。悪性腫瘍のうち、子宮がんと卵巣がんに対する治療について、産婦人科部長の有本貴英先生に聞いた。(取材日2021年9月30日)
目次
合併症や副作用の低減と、治癒率向上を両立する治療をめざす。治療後の妊娠・出産も一貫してサポートする
- Q悪性腫瘍の治療について、基本的な治療方針をお聞かせください。
- A
当科で扱う悪性腫瘍には、子宮頸部高度異形成を含む子宮頸がん、子宮内膜異型増殖症を含めて考える子宮体がん、子宮肉腫、卵巣がん、卵管がん、腹膜がん、外陰がん、絨毛がんなどがあります。がんの種類にもよりますが、基本的に初期で悪性度が高くなければ、根治性を下げないことを前提に考えつつ低侵襲な治療を選択し、術後のQOLの維持に努めます。一方、進行がんには、がんを取り切るための拡大手術を行い、化学療法、放射線治療を組み合わせて治療効果の最大化をめざします。また、再発の方に対しても、再発までの期間が長期で、再発病変の数が少ない場合には積極的に手術を行っています。
- Q子宮体がんの特徴と治療法について教えてください。
- A
子宮体がんは、子宮がんのうち子宮体部にできるがんのこと。子宮内膜から発生するため、子宮内膜がんと呼ばれることもあります。子宮体がんの最大の特徴は、比較的早い時期から出血を中心とした自覚症状があり、多くが初期段階で見つかることです。治療法はほとんど手術で、初期でがんの悪性度が高くなければ、体の負担が少ない腹腔鏡下手術を行うことができます。II期、III期で見つかったケースでも、子宮全摘術を行った上で補助療法をしっかり行えば、治癒をめざせますし良好な予後が期待できるでしょう。体がんを発症しやすいのは中年以降、閉経前後の50代、60代の女性でふくよかな人、生活習慣病のリスクが高い人などに目立ちます。
- Q子宮頸がんについてはいかがですか。
- A
子宮頸がんは、子宮がんのうち、子宮頸部と呼ばれる子宮への入り口にできるがんです。発症年齢のピークは30~40歳代で、子宮体がんに比べて若干若めですね。子宮頸がんの初期には自覚症状がほぼありませんが、異形成と呼ばれる前がん段階を経てがんになるため、検診や、婦人科の診療で見つかることが多いでしょう。 子宮頸がんのほとんどはヒトパピローマウイルス(HPV)への感染が原因であるため、HPVワクチンを接種して感染予防を図る対策もあります。治療法は、手術、放射線治療、薬物療法を単独、もしくは組み合わせて行います。
- Q卵巣がんについても教えていただけますか。
- A
卵巣がんは、子宮の両脇にある卵巣に発生するがんです。子宮体がんなどと違って、初期段階では自覚症状がほとんどないため、おなかの張りや違和感などの症状で受診した時にはがんが進行していることが少なくありません。進行度を見極めて、手術と化学療法を適切に組み合わせ、最大限の効果が期待できるような治療法をご提案します。最初の手術でがんを残さず取り切れるかどうかが治癒をめざせるかに大きく影響するため、基本的には開腹手術でがんを取り切ることを図りますが、状況によっては切除範囲を狭めて妊孕性を温存することも可能です。
- Q妊孕性を温存する治療について、詳しく教えてください。
- A
若くしてがんになり、現在、および将来的な妊娠の希望がある方の妊娠・出産の機能を残す治療です。進行度が初期であることや、がんの状態などいくつかの条件を満たす必要がありますが、子宮頸がんや卵巣がんには子宮や卵巣を温存する手術を試みます。子宮頸がんの場合、本来なら子宮全摘出になるような進行期でも、子宮体部と卵巣を残してその他の範囲を余さずに切除を図る広汎子宮頸部摘出術などが選択肢になるでしょう。子宮体がんの場合、ホルモン療法が適しているタイプの組織型であれば、子宮全摘出術を行わずホルモン剤を服用することによってがんの縮小や消滅が期待できます。
有本 貴英 産婦人科部長
1998年東京大学医学部卒業。東大病院での研修後、公立昭和病院、埼玉県立がんセンターなどを経て東大病院医局長、病棟医長。2017年より現職。専門分野は婦人科腫瘍、婦人科手術。日本産科婦人科学会産婦人科専門医、日本婦人科腫瘍学会婦人科腫瘍専門医。